2014年4月19日 新潟県民会館コンサート

幕が上がると大きな満月。
SEが終わると満月の奥に冬美ちゃんの美しいシルエット。
ライトが冬美ちゃんを照らすと夜桜お七のイントロ。
オープニングの決めポーズのかっこよさに、
「今日も坂本冬美にしかできないステージを魅せましょう」
と言われているよう。

着物は石城先生の作品で黒の振袖で左右の袖がピンクとブルー。
髪飾りが大きく、首の長い冬美ちゃんでなければ成り立たないほど。
スタイルの良さが際立ち、大きく頭を作ってもあのバランスが保てることにも感動。

セット後方には大きな大きな桜の木のスクリーンが降り、月夜から夜桜の世界へ。
エンディングでもおかしくないような派手な演出に、初めて坂本冬美を観る人は、この一曲でも「来てよかった」「他の歌手の人とはスケールが違う」「美人だ」「スタイルがいい」「トップスターだ」など度肝を抜かれるだろうと思う。

ヒット曲が複数ある大スターにのみ許される贅沢な演出。
スターでいることが、かっこいい。

歌い終わるとトーク。
大スターとして登場した坂本冬美が、冬美ちゃん!冬美ちゃん!という掛け声とともに親近感のもてる地上人となる。
気さくなトークと、人懐こい笑顔に前方のお客さんが虜になっていく。
ステージ前方ギリギリまで出て、客席に近づく冬美ちゃんの姿にはなんのウソもおべっかもない。

最前列のお客さんと会話をしながら、実は会場に集まったお客さんの緊張感やときには懐疑的な雰囲気を和ませていく。

騙されるんじゃないか?と不安な人が、次第にこの人は信じてもいいのかも。と変化していく。
会場の空気とよく言うが、オープニングのトークではその空気の変化が確実にある。

美しく、歌が上手で、さすがにテレビでよく見るだけあってスターさんね。しかも、トークも上手じゃない。ふ~ん。演歌歌手って話しも上手なのね。地方公演に慣れてるからかしら。

きっとこの時点での感想はこんなところだろう。

ところが、次のコーナーは男歌。
冬美ちゃん曰く
「みなさんは全く知らないと思う曲を2曲きいてください。まずは男の劇場です」
といって袖にはけると、いつのまにかバックの桜はなく、かわりに花火が打ちあがる演出。

わずかな時間に引き抜きをして、白地に竹の墨絵のような柄とシンプルな髪型の冬美ちゃんが登場。

その姿。

歩き方や視線まで「兄貴モード」

上手から颯爽と現れ、そのまま下手まで拍手と冬美ちゃんコールを受けながらゆっくりと移動。

もう、この姿だけで完全に夜桜の世界とは別世界の雰囲気を作る。

下手で客席に向き直り、♪縦に割ろうと 斜めに切ろうと♪と振り付きで歌いだす。

これはもう、完全に確信犯で惚れさせられる。

いつもの控え目な冬美ちゃんとは別人で、一人称の「俺」に全く違和感がなく、
♪俺には俺の 夢がある♪
と歌われれば、もう、何も尋ねることはできず、ただただ付いていきたいと思う。

自分にこんな女な部分があったっけ。と気づかされるほどに兄貴な冬美ちゃんに惚れてしまう。ずるい・・・そして幸せ♪

更に、男の情話でも男の中の男に酔わされ、
♪俺がやらなきゃ 誰がやる♪
の歌詞に男としての冬美ちゃんと、歌手・芸術家としての冬美ちゃん両方を重ねる。

覚悟のある人の潔さのことを「男らしさ」というならば、冬美ちゃんが男であろうが女であろうが男らしいことに間違いない。

男らしさには男も女も惚れてしまう。

それを気づかず演じていた頃の男歌と、今のように充分わかっていて確信犯的に表現するのでは撃たれる側の深さが違う・・・・

ということで、女心のど真ん中に冬美兄貴ズドーン。

いやー、かっこいい。

興奮状態は自分だけではない。

軽い気持ちでスターさんを観に来たお客さんにも、テレビでは最近表現することの少ない男らしい冬美ちゃんを魅せることで、早くも坂本冬美の多面性をアピールすることになる。

男の劇場の♪お~れには おれ~の♪のところの歌い方が・・・このかっこよさは聴かないとわからない。聴けばすぐにわかる。とにかくかっこいい。

で、トーク。

男の火祭りの掛け声の練習などなどだが、2曲の男歌で完全に撃ち抜かれているので正気に戻るまでに少しかかる。
気付くと練習も終わりかけ。参加しつつもまだ心は
「かっこいい・・・かっこいい・・・かっこいい・・・」とドキドキしている。♪あっぱれ そーれ♪ の会場全員がコブシを突き上げるフリは定番化し、会場が全員で一体となる。
こんなにまとまるんだ・・・と改めてステージの上に立つ人の影響力を知る。

冬美ちゃんは何もお願いしない人で、与えてはくれるのにちょーだい。と言えない人柄。

でも、やっぱり、欲しいものは欲しい。と言えばこんなに全員が協力するのに・・・

いや、むしろ、何をして欲しいかみんなは待っているんだと。
このシーンを見ると思う。

「手拍子をしてください」
「掛け声をしてください」
「立ち上がってください」
「座ってください」

なんでもいいから双方向コミュニケーションをすることで、一生忘れられないコンサートになる。

会場いっぱいのお客さんがコブシをつきあげる光景は、何度見ても圧巻だ。

勇ましい曲から一転して、天使の誘惑が流れステージには私服姿の冬美ちゃんの画像が流れる。

男の中の男を観たばかりで、画像のキレイな女性が今の兄貴と同一人物だと理解できない。

むしろ、あの兄貴には、このくらいイイ女がいるだろう。と思ってしまう。

あれこれ消化しきれない気持ちが1曲聴く間に落ち着いてくる。

今度はドラマチックなイントロに乗って、スパンコールの黒のロングドレスの冬美ちゃんが登場。

その姿はメーテル。(by 銀河鉄道999)

登場のためのスポットライトが当たるだけで大拍手。
美しさに泣きたくなる。

逢いたくて逢いたくての出だし。

♪愛した人は♪の最初の♪あ♪

ここ、大好き。この声、やっぱり他にないと思う。

もともとHISが好きで冬美ちゃんにハマったので、HISでカバーしている逢いたくて逢いたくては長年かなりの回数聴いてきた。

でも、今回収録されたときに、この出だしの♪あ♪の違いが鳥肌ものだった。

説明はできないけど、聴けば分かる(こればっか)

最近は、来る、来る、来る・・・・と思ってこの♪あ♪を待ってしまうが、それでも期待以上の♪あ♪が来る。

紀ノ川の♪せめて~♪のところが気持ち良くて好きで待ってたけど、同じようにこの♪あ♪のところ好き。

静かに腰を揺らすたびにスパンコールがきらめき、抱けば折れそうに細い腰が最高。

完全に自分の男心がワサワサとうごめく。

男歌で突き動かされた女心はどこへやら・・・完全に自分が男になりきって、この目の前のいい女をどうしたら口説けるだろうか・・・そんなことばかりが頭をよぎる。

ああ。いい女だ。

洋装ならなんでも好き。というわけでもなく、特にドレスは本来の冬美ちゃんのスタイルを生かし切らないものが多いのだが、今回のドレスは最高!

あの細いウエスト、白いデコルテ、長い首・・・冬美ちゃんの美しさをありのままに惹き出している。

ああ、ここはもっとこうしてくれたら素敵なのに・・・みたいな邪念が1ミリもなく、この冬美ちゃんが私の大好物の冬美ちゃんです!!という感じ。

目視でいただきます!

愛のさざなみでは純粋な少女の心を。あんなにいい女なのに、黒のドレスなのに純白を感じる。
これも冬美ちゃんの心の透明感と声の透明感。両方がなければ表現できないと思う。

真っ赤な太陽は、独特のリズムで血が沸き返る。

本当は座っていたくない。立ち上がって踊っていたい。
そのリズムを自由に乗りこなす冬美ちゃんの得意気な表情がたまらない。
この2曲の対極とも感じる表現に冬美ちゃんの才能と選曲の素晴らしさを感じる。

また君に恋してるは定番化しているが、衣装やちょっとした動きが変わるたびに新鮮になる。

男歌が毎回かっこいい。を一番強く感じるのに比べ、また君は不思議な歌で聴くときによって感じるものが変わる。

歌声の心地よさに起因するのか、未来を想うこともあれば今の幸せを想うことも、過去を考えることも・・・またはコンサート自体やもっと別のことが浮かぶこともある。

心地よくトリップさせてくれる。今はそう感じる。

このあたりで休憩したいなぁ・・・と女になったり男になったり、冬美ちゃんの多面性に合わせて自分まで多面性を引っ張り出されてることで心が戸惑ってくる。

でも・・・そんなこといっても太鼓がセッティングされているということは・・・アジアの海賊だぁ!!!休憩なんてとんでもない!

赤い桜柄のアジアの海賊の衣装に身を包んだ冬美ちゃんが、素晴らしくかっこいいシルエットで現れる。

正面に向き直ったときの強気な表情!!

今度はどМ心に攻め込んでくる・・・

どうだ、私は美しくかっこいいだろう。好きだとお言い!言えないのかい!

そんなこと言いそうなくらい女王様だ。

そうかと思うといたずらっぽくクシャっとした笑顔を見せる。

これは「得意」だから。とでも言っていそう。

大好物です・・・と言うしかない。だって、この姿、この歌、大好きすぎる。

髪型も衣装もスタイルも歌もフリも表情も・・・・すべてが夢に描いた理想の坂本冬美。あ~。大好き・・・

次は久々の冬美のソーラン節。

アジアの海賊が出るまでは、これ系統で一番好きな曲。
ソーラン節だけどロックだなぁ。と思っていた曲。
アジアの海賊のキャンペーンでよさこい祭りに参加していたとき、よく一緒に歌ってくれていたなぁ。
きっと、演歌好きじゃない人でもとってもノリやすい曲。

あえて分類するなら「ロック演歌」ってのが私の好みなのかな。

とにかく、全身の血が「幸せだ!幸せだ!」と騒いでいる。

存分に騒ぎまくって暗転すると・・・・

資料映像が流れ出し・・・岸壁の母の語り部分がはじまる。

語りを口ずさめるようになってきた。
ずいぶん聴いてきたな。この岸壁の母ロングバージョンも。

そう思いながら登場を待つ。

波をあしらった紺のお着物にシンプルな髪型。

男歌のときとはまた一味違う。

歌うときの体。体勢が全くちがう。

声を出すためなのか、母親を演出するためなのか、中腰になる仕草が多く、男歌のときにはピンと伸びていた背中も若干丸くなって・・・

目を見開く仕草、細める仕草。八の字に眉を寄せる表情。
声だけではなく、顔で体でまさに全身で岸壁の母の世界を表現する。

持てるものすべてを出し尽くす姿は、自分の羽で機を織るツルのよう。

本人がすり減りはしないだろうかと心配になる。

が、歌謡浪曲に近づくにつれ、悲壮感だけではなく表現者としての坂本冬美自身も見えてくる。

勝手な推測だが、二葉先生から教わっている岸壁の母をそのままできるようになりたいと努力しつつも、私なりの岸壁の母。というものも同時に努力しているように感じる。

少し期間が開いて聴くたびの、この進化は教わっているだけではないように・・・思うのだ。

長くても10年に一度はアルバムに再収録して欲しいなぁ。と進化し続ける歌声に思った。

大きな拍手の中、冗さん登場。少しお話をしてからほどよきタイミングで冬美ちゃん登場。

白とブルーの孔雀のお着物。髪飾りも孔雀の羽。かっこいい。似合う。翼はあなたにこそふさわしい・・・・

トークを終えるとあばれ太鼓。

今回も冬美ちゃんの太鼓はなしだが、かわりに宝さんが宮太鼓を叩く。

見たいなぁ・・・冬美ちゃんの太鼓姿・・・

一番長く歌っている歌だけど、ときどきいつも聴いてる歌詞が新鮮に届いてくる。

あばれ太鼓も男歌だが、先程の男歌コーナーとは別で歌うからか、オープニングの夜桜お七と同じ感覚になる。
「大スター」であることが伝わってくる。

おそらく、男歌コーナーで歌うのか、それともエンディングに向けてのこの位置で歌うのかで、冬美ちゃんは歌い方を変えるのかもしれないと思った。

いつもは同じように聴いているのだが、男の劇場などのキレのある男歌にくらべると、丸みのある、大きさを感じる男歌だ。

能登はいらんかいね、火の国の女含めて、ここの3曲は同じ歌を前回のコンサートでも歌っているのに、やっぱり違う。

その前に何があるかで、コンサートの流れの中での1曲。という表現をしつつ、全体のバランスをなにがしか配慮しているんだと思った。

ベスト盤CDが嫌いで、オリジナルアルバムを収録順で聴くのが好きな私にとっては、構成の変わったコンサートはツギハギではなく、頭からラストまでが1つの作品なんだ。

このあたりの定番曲を聴きながら、そう思っていた。

ラストは風に立つ。

一時に比べると強さよりもやさしさが強くなっているように感じた。
引っ張っていくような印象が押し上げていくに変わったような。

いずれにしろ、心に響くいい歌だなぁ。

長々書いたが、とてもとても「新鮮」なコンサート。

タイトルをつけるなら
「百花繚乱 今、咲き誇る」かな。
「威風堂々 坂本冬美」って感じもしたなぁ。

とにかく自信に満ち溢れていて、迷いがなく、1曲1曲に表現したい内容や魅せたいビジュアルなどテーマがはっきりしているので、観ている側もスッキリ!

観終わったあとに、憑き物が取れたようなスッキリ感があったのも、この迷いのなさからなのか。

多面的な活動で表現するジャンルが増え続けるが、今回はその表現の棲み分けが一層はっきりしている。

ヒット曲の多い冬美ちゃんのコンサートはヒット曲ありきでコーナーが設けられ、それを広げていく構成が多いが、今回のコンサートは表現できる世界観、テーマが先にあって、そこに過去からの曲も含めて選曲して構成したのではないかと感じた。

それぞれのテーマごとに演じ、歌い、惚れさせてくれる、坂本冬美にしかできない完成度のすばらしいコンサートに酔いしれ、同じ時代にこの瞬間を共有できることに、心から感謝した。

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