瞼の母、特攻の母、そして岸壁の母。
師匠の二葉先生の前での歌唱。。。
それぞれに素晴らしく、冬美ちゃんのファンでいたから知れる歌謡浪曲の世界に感動の涙でした。
何十年も歌を歌うことを生業とし、歌手という職業というよりは、歌の道を追求し続ける「歌道」の冬美さん。
好きだから、なりたいから歌手を志し、神に選ばれたのは歌声ももちろん、その人格。
一人ではここまで来られなかったかもしれない道のりを二葉先生は師匠として、導いてくださった恩人。
このような機会は滅多にないので、二葉先生への感謝を多く感じる歌唱になるかと思いきや、戦争で息子と離れ離れにされた母の気持ちのみが突き刺さり、涙も緊張の涙ではなく母の想いから来る涙。
そう感じられました。
「道」を歩みながら、数々の弛まぬ努力で身につけた歌唱を、歌唱法の披露のために使うのではなく、心を伝えるためにのみ使うのが坂本冬美さん。
師匠の歌声を聴けば、まだまだ道の途中だと感じながらも、常にはるか前方に目指す光を与えてくれる師匠。
神様は冬美ちゃんを選び、心が耐えきれなくなったとにに二葉先生との運命的な出会いを与えてくれました。
心を伝えるにも、そもそもの心が無ければそれは無理。
冬美ちゃんにある心を歌にのせて届けることを、浪曲を通して迷いなく導いてくれる二葉先生。
二葉組が並んでいる画のときには、そういった歴史に想いを馳せていましたが、石原詢子さんやゆりねぇの熱唱を聴き、ご自分の歌唱前だというのに心動かされていく冬美ちゃん。
伝えるべき心は冬美ちゃんの胸の奥に沁み込んでもうなくなることはありません。
素晴らしい師匠と出会い、「歌道」を一歩一歩進み続ける冬美ちゃん。
30周年リサイタルでの岸壁の母も圧巻でしたが、昨年の新歌舞伎座で毎日毎日歌われてきた今、こうして映像に残るのは嬉しい限り。
「これからも心の修行をしてください。」
「芸はかじるな」
印象的な二葉先生の教えを、真正面から受け取り、その成果は二葉先生への報告ではなく、こうして歌で、心を伝えてくれる。
自身の感情よりも、歌の主人公の心を研ぎ澄まされて歌唱で伝えてくれる。。。
坂本冬美さんだけが背負うもの、乗り越えるもの、大きな期待を感じつつも、師匠が望むのは一曲の出来栄えではなく、それに取り掛かる姿勢や心。
師弟愛を「師弟愛ですよ」という言葉ではなく、あの歌唱から受け取れる幸せ。
支離滅裂だけど、冬美ちゃんには先生が必要だったように、先生にも冬美ちゃんが必要だったんだ。
そんなことを想う、素晴らしい番組でした。